「誰がために腹は鳴る」   月香るな



 それはある、冬の日のこと。
 あたし達の住む村に、ひとりの旅人がやってきたの。その人の名前はちょっと覚えてないけど、その人が言ったことは覚えてる。
 都会には「ばれんたいん・でい」っていう日があって、大好きな人に「ちよこれいと」っていうお菓子を贈るんだって。それをきっかけに、つき合いはじめちゃうカップルも多いとか。
 その「ばれんたいん・でい」は二の月、十四の日。もう、間近に迫ってる。
 だからあたし、決心したの。
 前から好きだったあの人に、「ちよこれいと」を贈ろうって!


 あたしはまず、村一番の物知り、マロンおばさんのところに出かけたの。だってあたし、「ちよこれいと」がどんなものだか、よく知らなかったんだもの。
「『ちよこれいと』っていうのは、茶色くて、甘いお菓子なのよ」
 あたしが訊いたら、マロンおばさんはそう教えてくれたの。作り方を書いた本がどこかにあるから、探しておいてくれるとも言ってくれたんだ。ああ、なんていい人なんだろう!
「そういえば、さっきパーシーちゃんも同じ事を訊きに来たわね」
「パーシーが?」
 パーシーっていうのは、あたしの友達。いつも男の子みたいな格好をしてて、男の子よりも男っぽいときもある。そんな彼女が、お菓子の作り方を訊きにいくなんて、全然想像もつかない。いったい、どんな顔をして訊きに来たんだろう。
「パーシーちゃんにも言ったけれど、『ちよこれいと』を作るには、ひとつだけ、材料が足りないの」
 マロンおばさんは続けて、そんなことを言った。
「だからチェリーちゃん、なんとか『かかお』っていう植物の実を、探してきてもらえるかしら。それさえあればたぶん、『ちよこれいと』を作れるわ」
 あたしは当然うなずいた。何がなんでも、その「かかお」の実を探してやるんだから!
「おばさん。その『かかお』の実は、どうすれば手に入るの?」
 マロンおばさんはにっこりと笑って、教えてくれた。
「何処かで買えるかもしれないけど、南の森に生えているそうだから、大人のひとに取りに行ってもらうといいわ。危ない怪物とかがいるそうだから、絶対にチェリーちゃんが行ったりしちゃ駄目よ」
「もちろん。約束する」
 言いながら、あたしは考えていた。
 あたしのパパは行商人で、当分帰ってくる気配がないから頼めない。ママに怪物のいるような森に行ける度胸なんてあるわけがないから、これも駄目。ほかに、頼りになりそうな大人のひとっていうと……ああ、思いつかない!
 仕方ない。あたしは決めた。
 危ない森だかなんだか知らないけど、あたしが行って、その「かかお」の実を見つけてみせるんだから!


「チェーリぃーっ」
 その日の午後。あたしが、何か武器になるものはないかと台所を物色していたとき、窓の外から声が聞こえてきた。
「チェリー・ドラクロワーっ、そこに居るなら返事しろーっ!」
 そんなに呼ばなくても聞こえるったら。それにしても、あのお世辞にも上品とは言えない口調。間違いなくあたしの友達・パーシーだ。
 何しに来たんだろう?
 あたしは、見つけたナイフをそのままに、玄関から飛び出した。
「パーシー、何か用?」
「マロンおばさんに、チェリーも『かかお』を探してるって聞いたんだ。――物は相談だけどさ、二人で一緒に、南の森に行かない?」
 足手まといにはならないよ、とパーシーは付け加えた。
 あたしはちょっと考えてみた。確かパーシーは、見習いとはいえ精霊使いだ。一緒に行って損はないはず。いや、むしろ相手が怪物なら、ナイフなんかより精霊の力の方がずっと効くに決まってる!
「わかった。一緒に行こう、パーシー。明日はヒマ?」
「空いてるよ。それじゃあ決まりだ。明日の朝、教会の前で待ち合わせ。それでいい?」
 ――と、まあ、そんなわけで、あたし達は南の森へ「かかお」を採りに出かけることにしたわけ。


「遅いぞ、チェリー」
 翌日。あたしが教会の前に行くと、パーシーはとっくにそこにいて、不機嫌そうに腕組みしていた。
「まだ鐘が鳴ってないじゃない。遅刻じゃないよっ」
「言い訳は見苦しいぞ。早く行こう」
 い……一応弁解しておこう、彼女はいい子なんだ。雨の日に捨てられている子猫を思わず拾ってしまったり、大きな荷物を持ったおばあさんを見ると思わず荷物を持ってあげてしまったりする、見かけの割にはいい子なんだ。……しかし腹立つなぁ……。
 あたし達は森の中の細い道を、延々と歩いていった。
「ところでチェリー。どこで調達してきたんだよ、その皮鎧」
「物置をあさってたら出てきたの。あたしのおばあちゃんが若い頃に使ってたんだって。もう五十年くらい前かなぁ」
「……こ、壊れないといいね」
 そう言うパーシーだって、手に持っている長い棒はたしか、倉庫の扉のつっかい棒じゃない。
 あたしは言いたいのをぐっとこらえて(なにせどんな風に言い返されるか判ったもんじゃない)、話を他のことに振った。
「ところでパーシー、精霊使いって魔法使えるんでしょ? どんなことが出来るの?」
「えっと……そうだな、まず、炎の精霊を使って炎の矢を飛ばす」
 お、それは使えそうだ。
「それから……精神の精霊を使って、相手の心に雑念を呼び起こす」
 ザツネンってなんだ。難しい言葉は判らないよ。
「あとは……風の精霊を使って、声を遠くに届ける」
 ……怪物と戦うには、何の役にも立ちそうにないな。
「大地の精霊を使って、地面を隆起させて相手を転倒させるとか」
 そんな地味な呪文で、いったいどうしろっていうの!
「何か他にないの? ドッカーンとか、ズドーンとか、そういう感じの派手で判りやすい呪文!」
「仕方ないだろ、まだ見習いなんだから! 他にも水の精霊を使って汚れた水や海水を真水に変えるとか、建物に住む精霊を使って人間が寝てる間に掃除してもらうとか、便利なんだぞ精霊魔法は!」
 あたしは何も言わなかった。というより言えなかった。
 精霊使いって、もっとこう、精霊を従えて勇敢に戦うイメージがあるんだけど……便利なのか? 便利なだけなのか? 海水を真水に変えても怪物は倒せないんだ。いくら家をきれいにしたって怪物は倒せないんだぞーっ?
 あたしはようやく、パーシーがあたしに協力を求めに来た理由に気がついた。
 つまり、精霊使いというのは吟遊詩人が詠う魔術師のように、攻撃魔法を駆使して戦ってしまうわけではないのだ。
 ということは、あたし達はそんな魔法とナイフとつっかい棒で、恐ろしい怪物どもと戦わなければならないわけで。
 マジっすか。
 顔面蒼白になっているあたしを、パーシーが笑う。
「どうしたチェリー。怪物に怖じ気づいたか?」
「ち、違うよっ!」
 そうだ。忘れてた。
 あたしはここで怖がってるわけにいかないんだ。
 大好きなあの人のために、「ちよこれいと」を作らないといけないんだあっ!


 それからしばらくが経った。
 木々のすき間から射しこむ陽の光がまぶしい。
 しかしそんな中あたし達は、なんの因果か全力で走っていた。
 理由はもちろん――後ろから、怪物が追いかけて来てるからよ!
「ぱ、パーシー! 何とかして!」
「もっと具体的に何かないのかっ! 何とかって言われても困るだろうがっ」
 あたしは走りながら考えた。追いかけてくるのは怪物(緑頭鬼、とさっきパーシーが言っていた)。不格好な頭に短めの手足。一度転んだら起きあがれないだろう……転んだら?
「パーシー! さっき、相手を転ばせる呪文があるって言ってたわよね!」
 そうだった、と叫んで、パーシーが呪文を唱えるために立ち止まる。相手との距離はそれなり。パーシーと離れたくなかったから、あたしもそこで止まった。
 パーシーが何か、東方語でも共通語でもない言葉でつぶやいている。それが精霊語とかいう、精霊使いが使う言葉だってことだけはあたしも知っていた。意味まではわかんないけどね。
「スネア!」
 走ってくる怪物の足下をパーシーが指さすや否や、その地面がぼこりと盛り上がった。怪物は思いっきりそこにけつまずき、頭から転ぶ。
 手足をばたばたと動かして起きあがろうともがく怪物を後目に、あたし達はがんばって走った。


「ところでパーシー」
 ようやく怪物の姿も見えなくなった頃、あたしはふとパーシーに気になっていたことを訊ねてみた。 「『ちよこれいと』ってどんなものだか、知ってる?」
「茶色くて、甘くて、えーと溶かすとどろどろになって、色々な形になって、冷やすと固まるお菓子……だっけ?」
 それくらいはマロンおばさんやあの旅人に聞いて知ってる。
「だから……うーんと……スライムみたいなものかなぁ?」
 パーシーが困ったようにつぶやく。
 あたしの頭の中で、砂糖をまぶした不定形の茶色いスライムが、ぷるぷるとうごめいた。……なんか違う気がする。
「あ、川だ」
 あたしの下らない妄想をぶちこわしたのは、パーシーのそんな一言だった。見れば、飛び越えるにはちょっと広すぎる川が目の前にある。そこにはぼろっちい丸木橋がかかっていた。
「わわっ、ちょっとパーシー、何なのこの魚!」
 何気なく水面をのぞき込んだあたしはびっくりして叫ぶ。なんだか歯がするどくて目つきの悪い、性根の腐ってそうな魚が泳いでいた。
「知らないのか? 櫛歯魚だよ。こいつに噛みつかれたら痛いぞ。汚い水の中に好んで住む、変な魚さ。きれいな水は嫌いらしい」
 パーシーがしたり顔で解説してくれた。幸い、腐りそうとはいえ橋がかかっているんだ。よかった、噛まれないですみそう。
 あたし達が橋を渡ろうとした、そのときだった。
 背後で、きゅぉーぐるぐるというワケのわからない鳴き声がした。
 ……緑頭鬼の鳴き声だぁっ!
 しかも悪いことに、その声はひとつじゃなかった。橋の向こう、川の対岸からももう一匹出てくる。
「わーっ、わーっ、お願い助けて食べないでっ」
 パーシーは対岸の一匹が目に入っていないのか、あたしの手を引いて全速力で橋を渡る。普段のパーシーからは考えられない慌てっぷりだ。橋がぎしぎしと鳴った。
「パーシー、前、前を見て走ってよっ!」
 あたしが指摘すると、ようやくパーシーは対岸の一匹に気づいたらしかった。余程びっくりしたらしく、ぺたりとその場に座り込む。
「ち、ちょっと、ぼーっとしてる場合じゃないでしょ!」  あたしはそりゃあ焦ったわよ。前からも後ろからも、緑頭鬼が迫ってきてるんだから。たぶん襲われたら危ないと思う。
 仕方ない。腹を決めて、あたしはすぐ前に迫ってる緑頭鬼の前に飛び出した。ポーチから、台所にあった果物ナイフを出して構える。
「来るんだったらあたしが相手よ!」
 言ってしまってから後悔した。あたしは一体何をやってるんだ。ナイフなんか持ち出して、怪我しちゃったらどうしよう。
 緑頭鬼がぐおんきゅるぱおーんと鳴いた(なんて鳴き声だ)。爪を振りかざして襲ってくるのを見て、あたしは慌てて逃げる。とりあえず目の前にあった木に登った。獣に襲われたら木に登るもので、死んだフリをするのは昔話の中だけだっていうのは常識。
 ラッキーなことに緑頭鬼は木登りができないみたいで、幹をがりがりと引っかいて悔しそうにしている。神は我を見放さず。
 ふとパーシーの方を見てみれば、彼女はどこからともなくマッチを取り出して、橋に火をつけていた。もちろん橋を渡ろうとしていた緑頭鬼は、泡を食って逃げ出していく。なかなかやるじゃない。
 これは負けてられない。あたしは持っていた果物ナイフで、目の前にぶらさがっていた馬鹿でかい木の実を切り落とす。
「くらえ、ドリアン攻撃っ!」
 そう、あたしが登ってきた木は、ここらの名物であるドリアンの木だったのだ。その実はけっこう重くて、落ちてきた実にぶつかって死んだ人もいる(あたしは絶対にそんな死に方はしたくない)。
 ぼと、とあたしの手から落ちた、少しばかりちくちくするドリアンの実は、下にいた緑頭鬼の頭を直撃。よく「下水道を通ってきたカスタードプリン」という(まったく訳の分かんない)形容をされるドリアンの臭いにおいと共に、そいつはその場にぶっ倒れた。
 ちなみにあたしの大好きなあの人の名前もドリアンという。それもあってあたしはドリアンの実が好きだ。臭いけど美味しいしね。
 あたしは木から降りると、まだ橋のあたりで座り込んでいたパーシーのところに行った。彼女は燃えてしまった橋を前に、ボーゼンとしている。
「パーシー、大丈夫?」
「……こ、怖くて腰が抜けた……」
 その答えを聞いて、思わずあたしは笑う。
「なによパーシー、怪物なんて怖くないって顔してたのに」
 いつものお返しとばかりあたしが言うと、パーシーはなんと素直にうなずいた。
「本当に、こ……怖かった。もう、どうしようかと……」
 ちょっと待ちなさいよ、そうやって素直に認められたらなんだかツッコミを入れる気が削がれるじゃないの。
「火の精霊を呼び出すために、マッチ持ってたから良かったけど」
 言って、パーシーはため息をついた。あたしは彼女の手をとって引っ張り起こすと、再び先へと歩き出した。
「いつもこうだ。いざって時になると緊張しちゃって何もできない。頭が真っ白になっちゃってさ……どうせ『ちよこれいと』だって、作ったところで渡せないよ」
 いつになく弱気な顔でうじうじ言いながら、パーシーはついてくる。やめてよ、こっちまで気が滅入る。
「あのね! そんなこと言ってたら始まらないでしょ! 頑張ってここまで来てるんだから、怖いの我慢して来てるんだから、ちゃんと作って渡さないとダメでしょ!」
「そ、そんなこと言ったって」
「なによ! そうやって悩んでるうちに好きな人が誰かに取られちゃうかもしれないでしょ? それじゃダメでしょ? 『当たって砕けろ』よ、『龍の巣に踏み込まなければ宝物は手に入らない』よっ!」
 あたしが一生懸命力説すると、パーシーは小さくうなずいた。
「そ……そうだな、そうだよな……」
 パーシーは、少しほっとしたように言った。
「ところでパーシー、橋燃やしちゃったら、どうやって帰るつもりなの?」
「……あ!」


「チェリー、あれがたぶん『かかお』の木だよ」
 坂の下を指さして、パーシーが言った。そこそこ背の高い木に、大きな黄色い実がたくさんなっているのが見える。
 あれが「かかお」の実なんだね。あれがあれば「ちよこれいと」が作れる、大好きなドリアン君にそれをプレゼントできる!
 走り出そうとしたあたしを、パーシーが引き留めた。
「待ってチェリー、あそこにまた怪物がいる」
 そう言われてよく見れば、緑の頭が木に隠れて見にくいけど、確かにまたまた緑頭鬼。まったくワンパターンなこと。
 それはのそのそと歩きながら、道の真ん中に出てくる。一匹だけなら何とかなるかもと思っていたら、反対側からなんともう二匹やってきてしまった。あたしたちは、慌ててそばの木の陰に隠れる。
「どうする、パーシー?」
 また怖がってるのかと思ってパーシーの方を見れば、彼女は思ったよりしっかりした声で答えた。
「……考えがある。任せろ」
 それからパーシーは両手を前に出して、精霊語を唱えだした。そんなパーシーの周りに風がうずまいたことからして、多分風の精霊を呼んでいるんだろう。
「ウィンドボイス」
 とパーシーがささやく。それからなんとパーシーは大きく息を吸い込んで……
「やーいやーい、バカ怪物ども! こっちだこっちー」
 叫んだ。
「ち、ちょっと、何やってんの――」
 あたしも思わず声が大きくなる。そしてその時気づいた。
 怪物たちはあたし達の方を向く様子はなく、むしろ見当違いの方向を向いて何やら鳴いてる。
「パーシー、何したの?」
「風の精霊を使って、声のボリュームが落ちないようにあそこまで届けた。だから多分、あいつらは声の出所を錯覚したはずだ」
 パーシーの作戦通りなんだろう、怪物たちはきょろきょろと辺りを見渡したあと、道の向こうへと消えていった。
「やった、作戦成功!」
 あたしとパーシーは、急いで「かかお」の元へ走った。
 その時ちらっと見えたパーシーの顔は、とっても嬉しそうだった。


 大きな「かかお」の実を背負い袋いっぱいに詰め込んで、あたしたちは帰り道を急いでいた。
「……あ、この川」
「…………」
 ――そしてあたしたちは、さっきパーシーが燃やしてしまった橋の前で途方にくれることになった。
「パーシー! ちゃんと責任とって何とかしなさいよっ」
「だ、だってあの時はああするしかなかったんだから」
 川には怖い櫛歯魚。噛まれたら痛い櫛歯魚。川幅は、飛び越えるにはちょっと広い。深くはないから、歩いて渡れないことはないだろう。だけど流れの緩い濁った川には、櫛歯魚がわらわらと。
「とにかく、何とかして渡らないといけないんだろ……?」
 パーシーは腕組みをして考え込む。あたしも真似して考える。
 えーっと、例えばさっき言ってたパーシーの精霊魔法で、何か使えそうなものとか――
「あ!」
 ――そうだ。思いついた!
「パーシー、櫛歯魚はきれいな水が嫌いだって、確か言ってたよね? もしきれいな水が流れてきたら、この魚はどうするの?」
「えーと……逃げる。水が汚いほうに向かってな」
 それなら、とあたしは、川を指さす。
「さっき、汚れた水を真水に出来るって言ったよね? それでこの辺の水をきれいにすれば、櫛歯魚は逃げていくから川を渡れるよ!」
 パーシーが目をしばたいた。それから、うん、とうなずいて川の方を向く。
「残ってる魔力、限界までつぎ込むからな。水がきれいになったら、すぐに走って渡るぞ!」
 パーシーが精霊語を唱える。その顔はものすごく真面目だ。
「――ピュリフィケーション!」
 あっという間に、あたしたちの目の前の水(だけ)がきれいになる。あたしはパーシーの後に続いて走った。櫛歯魚が慌てて逃げていく。川は流れているから、汚れた水に気をつけなくちゃ――っと。
「大丈夫か、チェリー?」
「うん、なんとか」
 ……だけど、なんだか急にお腹が空いてきて、あたしはついその場に座り込んだ。
 ……そういえば、まだお昼ごはん食べてなかった……。


 そして「ばれんたいん・でい」がやってきた。
 あたしはマロンおばさんに手伝ってもらって、「ちよこれいと」を作った。それから、ドリアン君の家に出かけたんだ。
「ドリアンくーん♪」
 門の前から呼びかけ……そこで、あたしの言葉は止まった。
 庭にいるドリアン君の横にはパーシーがいて、二人は楽しそうに喋っていたのだ。そしてドリアン君の手には、「ちよこれいと」……
 ま、まさか。あたしの不安は、直後現実のものになった。
「あっ、チェリーじゃないか! ありがとう、チェリーが励ましてくれたおかげで、勇気を持って渡せたよ、『ちよこれいと』!」
 つまりあれですか。パーシーもドリアン君を狙ってたわけですか。そしてあたしはなんと、ライバルを勇気づけてしまったのですか。
 ああ、ドリアン君ったらあんな楽しそうな顔して……っ!
 も……もう、「ばれんたいん・でい」なんて嫌いだぁっ!


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